飲食店お役立ちコラム

2022.05.16

経営

飲食店のDXとは?デジタル化との違いを解説

飲食店のDX

近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を頻繁に耳にするようになりました。DXとはデジタルや情報を活用するための技術を手段としてビジネスモデルの変革を行うことを指します。社会の変化が激しいこれからの時代、飲食店もDXへの取り組みが必要となっていきます。

ただ、DXとデジタル化は何が違うのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか?この記事では、DXとデジタル化の違い、また飲食店のDX成功事例などを、詳しく紹介していきます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

現在、世の中で使われているDXの定義は厳密には一致しておらず、使い方も人や場面によってまちまちでですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)という概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱され「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と定義されています。

出典:総務省 デジタルで支える暮らしと経済(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112210.html)

デジタル技術を用いた単純な省人化・自動化・効率化・最適化に対し、DXは、デジタル技術の活用による新たな商品・サービスの提供、新たなビジネスモデルの開発を通して、社会制度や組織文化なども変革していく概念を指します。

つまり、デジタル化やIT化などは、DXの手段ということになります。DXは、単に作業時間を減らす・プロセスを自動化するというより、根本的に運用が変わるなど、ドラスティックな変化であると言えます。

DXが注目される背景

DXが注目されている背景は、スマートフォン等の普及に伴う消費行動等の変化があると考えられます。スマートフォンに代表される高度なデジタルツールが普及し、生活インフラとして定着。あらゆる業種・業態においてこれまでにない新しい製品やサービス、ビジネスモデルを展開する新規参入企業が登場しました。

消費者はこうした新たな製品・サービス等への接触を通じて、その行動や嗜好、価値観を絶えず変化させています。このような状況下で、従来と同じビジネスを続けても発展は望めず、変化するビジネス環境に適応できる変革が求められているのです。

また、全世界ではデジタル化の加速に伴い、産業構造の変革やビジネス環境の変化もまた加速しています。ところが、日本は少子高齢化の進行に伴い、生産年齢人口の減少など企業のビジネス環境がますます厳しくなる中、世界との遅れを取り戻し抜本的な改革が求められる状況にあります。

このまま対策を講じないと「IT人材の不足」と「基幹システムの老朽化」により、2025年から年間で最大12兆円もの経済損失が生じる可能性があるといわれており、これを「2025年の崖」と呼びます。そのため、国は「DX認定制度」を設け、ITシステムの整備に向けた方策を示しDXの推進に力を入れ始めました。

飲食店のDX 取組の状況

総務省では、2021年にデジタル・トランスフォーメーションの取組状況を調査しました。業種を区分してDXの取組状況をまとめたのが、下図です。宿泊業、飲食サービス業は、情報通信業などの業種から遅れてはいるものの、2018年度以前・2019年・2020年からの実施、今後実施を検討している店舗が、33.5%となりました。

DXの取組状況

デジタル・トランスフォーメーションの取組状況

※総務省:デジタルで支える暮らしと経済(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/01honpen.pdf)を一部加工して作成

以下の左図は、目的別での効果の有無を尋ねた結果です。このうち左表は、各項目をDXの実施目的としたかどうかに関わらず、発現した効果を尋ねたもので、「業務効率化・コスト削減」で効果が出たと回答した企業が多くなっています。

右表は、各項目をDXの実施目的として掲げた企業に限定して、当該項目における効果の有無を尋ねた結果です。全体的に目的意識があった方が効果も出やすいことがわかりました。

DXに取り組むことによる具体的な効果

DXに取り組むことによる具体的な効果

※(出典)総務省:デジタルで支える暮らしと経済(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/01honpen.pdf)を一部加工して作成

飲食店のDX 成功事例1

都内に14店舗を展開(2020年3月末)する、カスタムチョップドサラダ専門店を運営する企業のDX成功事例を紹介します。
当企業では、モバイルオーダーアプリを全店に導入し、待ち時間短縮による顧客の来店頻度向上、顧客単価アップ及びスタッフの労働時間の削減を実現。モバイルオーダーソリューションとして他社にも販売し、飲食業界全体の底上げ(生産性向上)を狙いとしています。

課題

顧客は店頭でカスタムサラダ(サラダの具材を好みに応じて選択)を注文し、定員は注文を確認してから盛り付けを行って商品の提供を行っていました。業況拡大に伴い、店舗現場は疲弊し、オペレーションを回すことで精一杯の状況でした。

解決

モバイルオーダーアプリを全店に導入し、顧客はスマホから来店前に注文・決済をすることが可能になりました。定員側はスマホからのオーダーを確認して商品を準備できるため、効率的な時間の活用ができます。

効果

  • 【顧客単価の増加】
    店頭注文と比較して、アプリ注文では顧客単価が8%アップしました。

  • 【業務効率化】
    現場スタッフの作業時間は1日あたり90分軽減しました。

  • 【システムの開発・販売による売上増】
    グループ会社では、飲食店向けのモバイルオーダー運用ソリューションの開発・販売に取り組んでいます。実際に飲食店の現場から開発しているため、人件費削減や効率化を目指したものではなく、顧客とのつながりやブランディングを重視できるようになりました。

飲食店のDX 成功事例2

次に、創業1912年、従業員数44名の、老舗食堂のDX成功事例を紹介します。「予測的中率95%超」という来客予測システムや、店舗データと外部要因を取得・可視化するBIツールを自社開発。売上5倍・利益率10倍を実現しました。

店頭に定点カメラを据え、商店街の通行客数や来店客数を、画像解析カメラ・来客予測AIシステムなどを使って測定。これに天気予報などの様々なデータにより、来客予測を実施しています。的中率は95%超。自店の仕入やサービス改善、商品企画、さらに事業計画作りにも役立てています。

課題

業務は紙ベースで実施していました。

解決

約3年かけて、400項目近いデータの相関関係を詳細に分析し、来客数に最も影響を与えそうな項目を洗い出し、結果的にこの予測式は「予測的中率95%超」になりました。売上分析、顧客属性分析、天候などの外部要因分析、通行量・入店率・売上昨対比較等BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール化。AIも活用した来客予測は、食材発注や仕込み、勤務シフト、販売促進、事業計画に活かせるようになりました。

効果

  • 【売上高の増加・利益率向上】
    2012年からの5年間で売上は5倍に、利益率は10倍にまで向上しました。

  • 【食品ロス軽減】米の残量だけを見ても、2012年と2019年を比較すると、約90%のロス削減効果が出ています。

  • 【従業員の無駄な残業や出勤の抑制】
    来客予測により実現。全社員平均で連続15日間特別長期休暇を取得。有給休暇の取得率も80%以上に達しています。

  • 【コロナ禍での休業判断に活用】
    店舗前の通行客数と入店率に加え、雇用調整助成金の給付額と固定費削減効果などを掛け合わせて、コロナ下の店舗の営業利益分岐点を独自に算出。売上が前年比70%に落ち込んだら休業した方がいいと判断し、全店の休業に踏み切りました。店舗再開の目安もデータによって裏付けられています。

※成功事例1.2. 総務省:デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei//linkdata/r03_02_houkoku.pdf)を抜粋して作成

飲食店のDXとは?デジタル化との違いを解説:まとめ

人々の趣味・嗜好・ライフスタイルやビジネス環境が絶えず変化する社会において、飲食店が競争力を維持・向上させるためには、その時々の状況に応じた柔軟な対応が求められています。

これまでもデジタル化・IT化が進められてきましたが、それらの多くは業務の効率化・コスト削減を目的とするものでした。それが、コロナ禍で非対面・非接触のニーズが拡大し、DX=デジタル技術を活用することによる新たな日常を見据えた変革の必要性が高まっています。

参照記事:デジタル化で変わる飲食店の接客

飲食店がDXを実現するには、意識改革だけでなく予算も必要です。2022年IT導入補助金の公募が3月31日に始まりましたので、取り組みをスタートさせるには良い機会です。自分で考えるのが難しいという場合は、導入コンサルティング費用も補助金の対象ですので、専門家に相談することができます。新しい時代に備え、今からDXに取り組んでいきましょう。

総務省 :デジタルで支える暮らしと経済
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/01honpen.pdf)
総務省: デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei//linkdata/r03_02_houkoku.pdf) を加工して作成

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