2021.08.20
経営
飲食店が取り組む食品ロス対策【事例あり】
日本では食べられるにもかかわらず廃棄される「食品ロス」は年間612万トン(2017年度)、このうち外食産業から127万トンもの食品ロスが発生しており、多くが食べ残しによるものです。
昨今、食品ロスのの削減はSDGsの目標にも掲げられ、国際的にも重要な課題となっています。地方公共団体では、飲食店等における食品ロスの削減に向けて、「食べきり」運動や、食べきれずに残した料理を自己責任の範囲で持ち帰る「持ち帰り」の呼び掛けも広がり始めているとのこと。
そこでこの記事では、食品ロスの現状と飲食店における食品ロス対策について解説していきたいと思います。
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飲食店の食品ロスの現状
冒頭で紹介したように日本の「食品ロス」は年間612万トン。この量は国連世界食糧計画(WFP)による食糧援助量(約420万トン)の1.5倍に相当します。
【食品ロスの発生量と発生場所】
農林水産省:食品産業の動向「食品ロスの発生量と発生場所(2017年推計)」を元に作成
日本の食料自給率は先進国の中でも低く、多くの食べ物を海外からの輸入に頼っているにも関わらず、多くの食品ロスを生み出しているという状況は、社会全体で解決していかなくてはならない課題です。
【外食産業における食品廃棄物の発生状況と主な要因】
農林水産省「外食・中食産業における食品ロスについて」を元に作成
飲食店の食品ロス対策
環境省では、消費者庁、農林水産省、厚生労働省と共に、飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項として、「1. 食べきりの促進」と、「2. 食べ残し料理の「持ち帰り」は自己責任の範囲で」という内容を呼びかける文書を公表しています。
1.食べきりの促進
- お客様の食べ残しは、廃棄することになり飲食店にとっても損失となるものです。食べきっていただくように料理を出すタイミングや、客層に応じた工夫をしましょう。
- お客様が、食事量の調整・選択ができるように、小盛りや小分けの商品をメニューに採用しましょう。
- 宴会等、大量の食事を準備する際には、食べ残しが発生しないよう幹事と食事量やメニューを相談しましょう。
- 宴会等において、お客が食べきったらサービス券を配付するなど、食べきることにインセンティブを持たせることも方法の一つです。
2.食べ残し料理の「持ち帰り」は自己責任の範囲で
- 持ち帰りの希望者には、食中毒等のリスクや取扱方法等、衛生上の注意事項を十分に説明しましょう。
- 持ち帰りには十分に加熱された食品を提供し、生ものや半生など加熱が不十分な料理は、希望者からの要望があっても応じないようにしましょう。
- 清潔な容器に、清潔な箸などを使って入れましょう。水分はできるだけ切り、残った食品が早く冷えるように浅い容器に小分けしましょう。
- 外気温が高い時は持ち帰りを休止するか、保冷剤を提供しましょう。
- その他、料理の取り扱いについて、注意書きを添えるなど、食中毒等の予防をするための工夫をしましょう。
飲食店の食品ロス対策の具体例
上記のような対策を実践している飲食店の例を紹介します。
居酒屋の食品ロス対策
「食べきり」の呼びかけ、食材の「仕入れ量」や「使いきる」工夫
- 発注量の適正化を見直し。宴会料理の内容を検証し、1 人の可食料を算定して発注する。
- 生鮮食品の一次加工後の真空保管。
- 食材を多岐にわたるメニューに活用し、廃棄の減少に努める。
- 生鮮品は加熱商品として二次加工提供を実施。
- こまめな炊飯を実施。
- 宴会場では大皿提供の料理の取り分けを実施。居酒屋店舗では、閉店10分前に声掛けをして残った料理の食べきりを促す。
- 分子調理器活用による廃油減。
実施効果
- 分子調理器に転換後、月間 1 斗缶 2~3 缶の廃油減に繋がった。
- こまめに炊飯する事で残米量を削減できた。
- 声掛けをする事で残料理があるお客様がすすんで可食をして下さり残渣減に繋がった。
- 食品廃棄物等が前年度より10t減少した。
ホテルの食品ロス対策
食品提供の工夫、ポスター、宴会卓上POPで周知、残った料理の持ち帰り
- 会席では温かい料理、冷たい料理を食べごろのタイミングで提供し、提供方法を工夫して食べ残しがでないようにしている。
- ウォンツスリップ(※顧客の声を反映してサービス向上する取組)を活用し、評価の低い料理(食べ残しが目立つ料理)はメニューから外し新メニューに切り替える。
- 食材は在庫を減らし、商品回転を速めることで廃棄ロスを減らしている。
- 宴会時には乾杯後 30 分とお開き前 10 分は席でお食事をして下さいと、卓上POPで周知。
- 卓盛料理は個々に取り分けをして食事を促している。
- 残った料理があった場合は生もの以外は持ち帰りできるようパックを準備している。
実施効果
新聞、ラジオで取り組みが紹介され、他にも賛同していただいた同業他社や自治体でも取り組む姿勢が見えてきている。又、食べ残しが少なくなり持ち帰り用パックを必要とする方が以前より少なくなってきている。
寿司店の食品ロス対策
- 回転レーン上の皿を敬遠する顧客が増えている(大半が注文品)ことから、注文を受けた皿を直接客席に届ける高速レーンを設置した店舗に変更。
- 鮮度の高い商品を提供するとともに、データを活用し、食材の在庫や鮮度の適正管理を実現。
- これに伴い、乾いた寿司や食材等の食品ロスを大幅に削減。
なお、高速レーンの導入に合わせ、注文用タッチパネルを導入し、レジと連動させたため料金計算は皿を数える手間がなくなった。また、食品ロスが減り、寿司や食材を廃棄する手間も、それを準備した手間が無駄になることがなくなることで、業務の効率化にもつながっている。
実施効果
概算での推計となるが、「回転しない寿司」の店舗(108 店舗)で削減できた「乾いて廃棄する寿司」(平成 29 年度)は約 445トン
飲食店が取り組む食品ロス対策:まとめ
海外では、「ドギーバック(持ち帰りパックの利用)」という考え方が定着していますが、日本では食中毒などのリスクがあることから、飲食店での食べ残し持ち帰りに対応しているケースは少ないようです。また店のブランドイメージを維持するために、あえて持ち帰りを断っているお店もあるとのこと。
しかし食品ロスの主な要因が、お客様の食べ残しである現状を考えると、飲食店が率先して取り組んでいく必要があります。
多くの飲食店では、すでに仕込み量をコントロールしたり仕入れ対策をされていますが、さらに食べきりの促進、食べ残し料理の「持ち帰り」や、上記例の寿司店のような特急レーンとタッチパネルを導入することで、食品ロスが減り業務の効率化に役立ちます。
ブランドイメージを維持するために持ち帰りを断るよりも、お客様と共に食品ロス対策に取り組むことこそ、お店のイメージアップにつながるのかもしれません。
農林水産省:飲食店等の食品ロス削減のための好事例集(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/170516-38.pdf)を加工して作成