2022.08.8
経営
【飲食店の労働災害】防止するための具体策とは
令和3年1月から12月までの労働災害による死亡者数は867人と4年ぶりに増加となりました。休業4日以上の死傷者数は149,918人と平成10年以降で最多とのこと。 労働災害というと危険な業務を想像しがちですが、実は飲食店においても労働災害が多く起こっています。
この記事では、飲食店の労働災害の発生状況と、労働災害を防止するために何をすればよいかを具体的に紹介していきます。
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飲食店の労働災害の発生状況
令和2年の飲食店の労働災害(休業4日以上の死傷者)は、4,953人、令和3年でが5,095人と増加傾向。事故の型別の死傷者数は最多の「転倒」(全数の 28.0%)に続き、「切れ・こすれ」(全数の 19.6%)が多い結果となりました。 最も多い労働災害である「転倒災害」は高年齢者で多発、「切れ・こすれ」による死傷者数のうち、約半数(51.5%)が30歳未満で発生しています。

令和2年 飲食店 死傷者数4,953人
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転倒=1,386人
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切れ・こすれ= 970人
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高温・低温の物との接触=708人
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動作の反動・無理な動作=496人
出典: 令和2年労働災害発生状況の分析等(https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000790380.pdf)
飲食店の労働災害の種類
転倒による労働災害
転倒による災害は、約5割が「滑り」によるもの。そのうち半数は水や油で床が濡れていて滑ったものがあります。 また約3割が「つまずき」によるもの。そのうち約7割は荷物などの障害物につまずいたことによるものです。その他、材料・料理・皿・ゴミなど、物の運搬中に転倒した災害が約2割みられます。
【災害事例】
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ホールでお盆に辛子入れを乗せて両手で運んでいて、通路のワゴンに足を引っかけ転倒した。
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開店前の店の床清掃中、モップをかけていた際、床がぬれていたため、足を滑らせ、肘を打ち、負傷した。
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レストランの厨房に隣接していた食材庫に、食材を取る為、足を踏み入れた際、電気配線に足を引っかけ、あお向けに転倒。腰椎を骨折した。
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厨房内の洗い場で作業中、食器を運ぶ際、誤って床に足を滑らせて転倒し、膝を床に強打した。
転倒による労働災害の防止
大きい物や重い物を持つと、足元や前方が荷物で見えにくくなる ・両手がふさがる ・持った物の重みで身体のバランスを取りづらくなるなど、転倒につながるリスクが高まります。床の濡れや障害物の存在、通路の照度が十分でないなど、作業環境面でのリスク要因が加わると転倒につながるリスクはさらに増大します。
転倒災害を防止のポイント
4S(整理、整頓、清掃、清潔)活動を徹底しましよう。4Sの徹底は、作業の効率化などの効果も期待できます。
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床の濡れをきちんと拭き取る
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通路に置いてある荷物を片付けておく
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清掃中の箇所を通る際には、床が濡れているおそれがあることに留意しましょう
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大きい物や重量物を運ぶ際は台車を使いましょう。台車を使えないときは、二人で持つか、何回かに分けて運ぶようにしましょう
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通路の照度は十分確保しましょう
切れ・こすれによる労働災害
「切れ、こすれ」の中で、包丁などの刃物による労働災害は、約4割と最も多くを占めています。また、 皿やコップなど割れた食器による「切れ、こすれ」は、3割超え。そのうち約7割が食器を洗う、拭くといった作業中に起こっています。
その他、 缶の開口部の鋭利部分による「切れ、こすれ」は、約1割、 食品加工用機械による「切れ、こすれ」は、全体の約1割弱です。食材の加工中の災害のほか、詰まりの除去など、機械の手入れ中の災害などがあります。
食料品加工用機械による「切れ、こすれ」災害は、特に災害の重篤度が高く、手指の欠損など、重い障害が残る場合も少なくありませんので、細心の注意を払う必要があります。
【災害事例】
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厨房でまな板を拭いていたところ、まな板に放置していた包丁で手を切った。
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カレーの仕込み作業中、営業用ミキサーを使っていたところ、倒れて、ガラス部分にひびが入った。倒れたミキサーを手で持ち、ひびの部分を確認していた際、ガラスが割れ、手を切った。
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営業時間中、チャーシュースライサーを清掃中、誤って刃に人差し指が接触し、切創を負った。
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店舗キッチンにて、魚を三枚におろす作業中、手元が狂い、持っていた包丁で中指を切った。
切れ・こすれによる労働災害の防止
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刃物を使用するときは目線をはずさないようにしましょう。
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4S(整理、整頓、清掃、清潔)を徹底し、使い終わった刃物はきちんと片づけましょう。
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冷凍食材をカットする際は、食材が滑ったり、転がったりすることに留意しましょう。
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食器を洗うときには、ゴム手袋など手先を保護するものを着用しましょう。
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ゴミ袋は割れた食器や焼き鳥の串などの鋭利なものの混入危険がある。軍手、長いエプロンなど手先や足元を保護するものを着用しましょう。
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缶の蓋、缶の縁などで手を切る危険に注意しましょう。
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プルトップ型の缶の「切れ、こすれ」にも注意しましょう。
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刃物部分のガードを外すなど、本来の状態でない形で使用しないようにしましょう。
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機械の点検、掃除、修理は、機械を停止し、完全に止まっていることを確認してから作業しましょう。
やけどによる労働災害
厨房などで発生するケースが多く、そのほとんどが熱湯、高温の油、スープなど高温の料理、コーヒーなど高温の飲料などによる火傷です。
調理作業中の災害が約半数、料理の運搬作業中の災害が約1割強、材料の機械への補充、フライヤーの油の交換など機械・設備などのメンテナンス中の災害が約1割弱を占めています。その他、作業者間の連絡が不十分であったために発生しているものも見られます。
【災害事例】
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ホールのカウンターで味噌汁を鍋から保温器に移す際、照明をつけずに作業し、みそ汁を足にこぼした。
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フライヤーで揚げ物をしている時に飛び散った油で火傷、油の交換などのメンテナンス中に油に触れてしまい火傷した。
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厨房内にて、パスタボイラー清掃中、金属製の栓を横の電磁調理器の上に置いていたが電源が入っていた為、手で持ったところ、火傷した。
やけどによる労働災害の防止
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フライヤーを使う際には、長靴、長いエプロン、耐熱の手袋など、身体を保護するものを着用して作業しましょう。
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油の交換作業を含むフライヤーのメンテナンスに際しても高温の油に触れるリスクがあることを念頭に置いて作業しましょう。
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コーヒー抽出後のフィルターの内容物は高温であり、熱湯が残っている場合もあるので、フィルターやコーヒーを取り出す際には十分注意しましょう。
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4S(整理、整頓、清掃、清潔)活動として、厨房内の床が濡れていたり、余計な荷物が置いてあると転倒のもとになるので、清掃や片付けを徹底しましよう。
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熱湯などを入れた寸胴鍋などの容器を運んでいる時の転倒は「高温・低温の物との接触」にもつながりますので、注意しましよう。
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厨房内は暑熱な環境になりがちなため、熱中症の発生のおそれもあることに留意しましょう。
【飲食店の労働災害】防止するための具体策とは:まとめ
これまで見てきたように、飲食業における労働災害は「転倒災害」、「切れ・こすれ」が多くを占めていますが、法令上の義務付けがないことから、安全面からの取組は必ずしも十分ではない場合もあるようです。
転倒災害の平均休業日数は1か月を超え、休業日数が半年を超えるケースや、完治せずに障害が残るケースなどもあります。このような労働災害を防止するため、飲食店においても安全の担当者の配置を行うなど、従業員が安全に働ける環境を整えていきましょう。
出典:厚生労働省
飲食店の仕事を安全に
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000124710.pdf)
飲食店の労働災害防止マニュアル
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000123250.pdf)を加工して作成