飲食店お役立ちコラム

2026.07.6

経営

令和8年施行「食料システム法」に見る、これからの仕入れ実務と事業戦略

食料システム法

米や野菜、牛乳など、日々使う食材の仕入れ価格は、店舗の利益に直結します。ここ数年は原材料費や物流費、包装資材費の上昇も重なり、「できるだけ安く仕入れる」だけでは取引を続けにくい場面も増えています。
こうした背景のもと、将来の食料安定供給を維持するための新たな枠組みとして、令和8年4月1日に食料システム法(食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律)が施行されました。
この記事では、農林水産省の公表資料をもとに、飲食店や食品関連事業者が仕入れの現場で注意しておきたい点を中心に紹介します。

令和8年施行「食料システム法」の基本

対象となる取引と事業者の範囲

この法律は、営利目的かどうかを問わず、反復継続的に飲食料品の生産、製造、加工、流通、販売などを行うすべての事業者が対象となります。つまり、仕入れ先との価格交渉や取引条件の見直しは、飲食店にとっても確認しておきたいテーマになります。
対象となる「飲食料品等」には、そのまま調理して提供する食材だけでなく、こんにゃく芋や生乳、茶葉など、農林水産物由来の原料・材料として使用されるものも広く含まれます。

法律が目指す「適正な価格形成」

食料システム法において特に重視されているのが、「合理的な費用を考慮した価格形成」の実現です。生産者がコストを下回る価格での取引を強いられる状況を抑止し、持続的な供給に必要な費用を取引価格に適切に反映させることが目的です。

現場に求められる2つの「努力義務」

この法律に伴い、食材の仕入れを行う事業者には、取引の適正化に向けた以下の2つの「努力義務」が設けられました。ポイントは、値上げ要請を必ず受け入れなければならないということではなく、根拠を示した申し出に対して、頭ごなしに拒まず協議の場を設けることにあります。

1.協議を行う

取引条件に係る誠実な協議 取引先(生産者や卸売業者など)から、持続的な供給に要するコストなどの考慮を求める理由を示して協議の申し出があった場合、誠実に協議を行います。

2.必要な検討や協力を行う

商慣習等への検討・協力 商慣習の見直しなど、持続的な供給につながる提案があった場合、必要な検討や協力を行うことが求められます。

交渉の目安となる「コスト指標」

実務上のポイントとなるのが「コスト指標」の存在です。通常の取引では費用構造が認識しにくいとされる「米穀」「野菜」「豆腐」「納豆」「飲用牛乳(成分調整牛乳を除く)」の5品目については、国から認定を受けた団体が、各段階に要する費用を示すコスト指標を作成・公表する仕組みになっています。取引先からこの指標や公的統計を根拠とした説明があった場合には、客観的なデータとして尊重し、協議を進めることが判断基準として示されています。

コスト指標

現場で起こりやすいNG例

多忙な現場業務の中では、意図せず不適切な対応をとってしまうケースも考えられます。農林水産省の資料では、努力義務の判断基準に反すると疑われる事案例がいくつか紹介されています。

NG例1:繁忙期を理由にした放置

取引先から価格引き上げの申し出があった際に、「今は繁忙期だから後にしてほしい」と理由をつけて1か月以上も取り合わず放置するような行為は、「速やかな協議の開始」という基準に反するとみなされる可能性があります。

NG例2:過度なデータ要求と一方的な決定

公的統計などを根拠にコスト上昇を説明しているにもかかわらず、「もっと細かいデータを出してくれないなら一切協議に応じない」と対応するケースは、過度な要求として「資料の尊重」を欠く行為になり得ます。また、協議を行わないまま従来の金額で一方的に支払い、納品を求めるような対応も、判断基準に反するおそれがあります。

NG例3:不利益な取り扱いや、説明のない拒否

取引価格の協議を持ちかけられたことに対して、「価格に口を挟むならもう取引を停止する」と示唆し、申し出を取り下げさせようとする行為は、不利益な取り扱いにあたるおそれがあります。
さらに、検討の結果として価格を据え置く結論に至った場合でも、理由を一切説明せず「受け入れられません」とだけ回答して終わらせることは、検討結果の説明義務を果たしていないと判断されます。また、納品に関する「3分の1ルール」の見直し提案などに対し、他社を理由にして検討すら行わない態度も不適切です。

これらの事案については、農林水産本省や地方農政局等に配置された「フードGメン」が情報収集を行っています。事案の程度に応じて国から助言や指導が行われ、勧告に従わない場合は、最終的に事業者名や違反内容が公表される事案処理手続が規定されています。

前向きな投資を後押しする「計画認定制度」

食料システム法には、規制だけでなく「食品産業の持続的な発展」を支援するための前向きな「計画認定制度」も設けられています。所定の計画を作成し、農林水産大臣の認定を受けることで各種支援の対象となります。

認定対象となる4つの取り組み

以下のいずれかに該当する取り組みが認定対象となります。

  • 生産者との安定的な取引関係の確立(新たな産地との契約締結、農林漁業者への出資など)

  • 流通の合理化(労働生産性向上のための厨房設備の導入など)

  • 環境負荷の低減(調理過程の食品ロス削減、食品廃棄物の利活用など)

  • 消費者に選ばれるための情報提供(サステナビリティ情報の発信、コスト構造の見える化など)

得られる資金調達・税制面でのメリット

計画が認定されると、中小企業者に対する長期・低利の融資や、融資時の債務保証といった資金調達の支援が受けられます。また、設備投資や脱炭素化に向けた投資に対する税制優遇措置も用意されており、新たな機材導入や店舗改修にかかる負担を軽減できる可能性があります。

令和8年施行「食料システム法」に見る、これからの仕入れ実務と事業戦略:まとめ

日々の仕入れ原価を抑え利益を確保することは重要ですが、農林水産省の資料が示す通り、現在の食料供給システムはサプライチェーン全体での共存共栄が求められる段階にきているようです。
取引先から協議の申し出があった場合には、客観的なデータに基づいて丁寧に向き合うことが大切です。また、国の支援制度を活用しながら、環境への配慮や生産者との関係強化に取り組むことも、今後の事業基盤づくりにつながります。
まずは、主要な仕入れ先との取引条件や、価格改定時の協議の進め方を確認しておくとよいでしょう。仕入れ価格の上昇を単なるコスト増として受け止めるだけでなく、取引先との関係を見直す機会として捉えることが重要です。

出典:農林水産省
食品等の取引の適正化を促進する食料システム法が、令和8年4月1日に施行されました(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/tekiseika/attach/pdf/gaiyou-32.pdf)
食料システム法 概要パンフレット(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/attach/pdf/250623-41.pdf) を加工して作成

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