2024.10.7
経営
会員制飲食店の増加が示す、新たなニーズと可能性
近年、会員制飲食店の開業が増えています。従来型の会員制飲食店は、主に富裕層を対象に高額な入会金や紹介制が一般的だったのに対し、今増えている会員制飲食店は、特別感を保ちながらも、より利用しやすい形態へと変化しているようです。
この記事では、なぜ今、会員制飲食店が増えているのか、従来型の会員制とどのように違うのかなどを探っていきます。
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従来型の会員制飲食店
来型の会員制飲食店は、主に高級志向の店舗が多く、富裕層やビジネスエリートを主な顧客としていました。これらの店舗では、会員になるためには厳しい審査や既存の会員からの紹介が必要でした。
さらに、会員であること自体が社会的ステータスの象徴とされることもあり、特に1980年代のバブル経済期にはその傾向が顕著でした。このように、昔の会員制飲食店は排他的で高級志向が強く、限られた層のための特別な空間として機能していたことがわかります。
日本の経済がバブル崩壊を迎えると、外食産業全体が厳しい状況に直面しました。これに伴い、従来型の高級志向や排他的な会員制飲食店は、一般消費者にとって利用しづらい存在となり、需要が減少しました。
新しい形の会員制飲食店
新しい形の会員制飲食店が始まったきっかけは、コロナ禍以前からのトレンドの変化や顧客ニーズの多様化です。
クラウドファンディングが登場し、デジタル予約システムの普及により、資金調達と同時に会員を募ることができるようになりました。それにより、多様なコンセプトやテーマを持った飲食店が登場しました。
その後、コロナ禍が飲食業界に大きな影響を与え、固定客の確保が重要課題となりました。会員制飲食店は安定した収入源となり得るため、再び会員制飲食店の需要が増え始めたと思われます。
また、新しい形の会員制飲食店は顧客との深いつながりを重視しています。特定の顧客層に向けた特別なメニューやイベントを企画しやすくし、顧客満足度を高めることができます。
これらの要因が複合的に作用し、近年、会員制飲食店の開業が増加し、その傾向がさらに強まっていると考えられます。特に、コロナ禍を経て消費者の価値観や飲食店の経営戦略が変化したことが、この傾向を加速させた大きな要因だと言えるでしょう。
会員制飲食店の傾向
最近の会員制飲食店がどのように進化しているか、様々な報道や調査を見るとわかります。
会員制飲食店サイドの傾向
2023年末の日経新聞に、クラウドファンディングサービス「マクアケ」における、会員制飲食店の資金募集件数がコロナ禍前に比べ、9割も増加したとの記事が掲載されました。
「会員制飲食店の開業が相次いでいる。商品・サービスの先行購入サイト「マクアケ」での会員制飲食店の開業や改装などの資金募集件数は、1〜11月に新型コロナウイルス禍前の2019年同期間比9割増えた。」
引用元:日経新聞 2023年12月25日 会員制の飲食店が注目されている理由 飲食店に会員制の波 資金募集件数9割増、物価高に耐性
マクアケに掲載されている会員制飲食店の傾向として、以下のような特徴が見られます。
高級志向
質の高い料理を提供する店舗が多く見られる。
限定感の演出
会員数を制限したり、予約が取りにくい状況を作り出すことで、特別感や希少性を演出している。
多様な会員プラン
一般的な入会費型の会員権に加え、サブスクリプション※型の会員プランも提供されている。これにより、顧客のニーズに合わせた選択肢を提供している。
※飲食店におけるサブスクリプションとは、定額の利用料金を消費者から支払ってもらい、サービスを提供するビジネスモデル。飲食店においても、定額使い放題のサブスク、割引などのサービスを提供するサブスク、会員限定の特典を提供するサブスクなど、多彩なプランが登場しています。
特典の充実
会員向けの割引や優先予約、専用イベントの開催など、魅力的な特典を用意している。
拡張性
単一の店舗だけでなく、将来的に複数の業態や店舗を展開する計画を持つ店舗もあり、一つの会員権で様々な飲食体験ができるようになっている。
体験型リターン
会員権購入前に店舗の雰囲気や料理を体験できる特別価格のコースなどを用意し、新規顧客の獲得を図っている。
顧客との関係性重視
会員制を通じて、顧客との長期的な関係性構築を目指している。
会員制飲食店利用者の傾向
また、ChoiceRESERVEによる会員制飲食店利用の実態調査によると、1年以内の会員制飲食店の利用経験者は、20〜30代が多く、7割近くを占めていることがわかりました。
グラフ引用:「予約ラボ」20代~30代が高頻度でリピート!?会員制飲食店利用の実態調査(https://yoyakulab.net/business/survey-report-on-member-based-restaurant/)
この調査データから、会員制飲食店の利用者には以下のような傾向が見られます。
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年齢層:20〜30代が中心。
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性別:特に20代男性の利用が多い。
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職業:昔の会員制飲食店のイメージとは異なり、経営者層は少数派。
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来店のきっかけ:「知人の紹介」によって初めて来店するケースが多い。
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紹介行動:他人を紹介した経験がある人が多く、ほとんどが2人以上を紹介している。
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紹介理由:「同伴者が喜んでくれるから」が最も多い理由。
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予約方法:電話予約の他、1年以内の利用者はWEB予約やメール予約の利用率が高い。
これらの傾向は、飲食店が単なる食事の提供にとどまらず、特別な体験や継続的な価値を顧客に提供しようとする姿勢を反映していることを示しています。
会員制飲食店のメリット・デメリット
会員制飲食店には、メリットが多い反面、デメリットも存在します。
メリット
1. 質の高いサービスの提供
会員制飲食店は、特定の顧客層に焦点を当てることで、質の高いサービスを提供することができます。会員費を運営費に充てることで、食材やサービスの質を向上させることが可能になります。
2. 特別な体験の提供
会員制にすることで、特別なメニューやイベントを企画しやすくなります。顧客は他では味わえない独自の体験を楽しむことができ、店舗への愛着が深まります。
3. 顧客との深いつながり
会員制飲食店は、顧客との関係性を重視します。特定の顧客に向けたサービスを提供することで、信頼関係を築きやすくなり、リピート率が向上します。
4. 安定した収入源
会員費から得られる収入は、店舗運営の安定化に寄与します。固定的な収入があることで、経営計画が立てやすくなり、長期的な視点での戦略を練ることができます。
5. 差別化戦略
競争が激化する飲食業界において、会員制は他店との差別化を図る有効な手段となります。特別感や排他性が強調されることで、顧客はその店舗に対して独自性を感じやすくなります。
6. ブランド力の向上
会員制という形態は、高級感や特別感を演出しやすく、その結果として店舗のブランド力が向上します。顧客は「会員になること」が一種のステータスと感じることも多く、そのため店舗への関心が高まります。
7. コミュニティ形成
同じ価値観や興味を持つ人々が集まることで、コミュニティが形成されます。これにより、顧客同士の交流が生まれ、お店へのロイヤリティがさらに強化されます。
新しい形の会員制飲食店は、質の高いサービスや特別な体験を提供することで顧客との深いつながりを築き、安定した収入源を確保しつつ、競争の激しい市場で差別化を図ることができる魅力的なビジネスモデルです。これらのメリットは、飲食業界における新たな可能性を示しています。
デメリット
1. 新規顧客の獲得が難しい
会員制の特性上、一般的に新規顧客が足を運びにくくなる可能性があります。特に、会員制を導入することで「特別感」が強調される一方で、気軽に訪れることができる飲食店とのイメージの違いから、潜在的な顧客が敬遠することもあります。
2. トラブルやクレームのリスク
会員制飲食店では、本人以外の利用やプランの悪用が発生する可能性があります。これにより、正規に利用している顧客に不公平感を与えることがあり、トラブルやクレームにつながるリスクがあります。特に、権利の貸与や譲渡を防ぐルールを設ける必要があります。
3. 料金設定の難しさ
会員制飲食店では、料金設定が非常に重要です。「お得感」や「特別感」を求める顧客が多いため、魅力的な価格設定を行わないと赤字になる危険性があります。特に、サブスクリプションモデルの場合、初期段階で赤字からスタートし、その後黒字化を目指す必要があります。
4. 常連客とのバランス
会員制飲食店は、固定客を優遇する一方で、新規顧客が来店できない状況が発生することがあります。これにより、常連客が来店できないといったトラブルも多く、新たな顧客を獲得する機会を失う可能性があります。
5. コストの増加
決済システムの導入や運営管理にかかるコストも無視できません。特に現金決済のみで運営していた店舗では、新たな決済手段を導入するための初期投資やランニングコストが発生します。
新しい形の会員制飲食店は、多くのメリットを提供する一方で、上記のようなデメリットも抱えています。これらの要因を考慮しながら、経営戦略を練ることが重要です。成功するためには、顧客ニーズに応じた柔軟な対応や適切な料金設定が求められます。
会員制飲食店の増加が示す新たなニーズと可能性:まとめ
会員制飲食店の増加は、飲食業界における新たなビジネスモデルの台頭を示しています。
従来の高級志向から、より幅広い層をターゲットにした柔軟な形態へと進化し、特別感と利便性のバランスを取りながら、顧客との深い関係性構築を目指しています。この傾向は、デジタル技術の進歩やコロナ禍による消費者行動の変化に適応した結果であり、今後も多様化する顧客ニーズに応える形で発展していくでしょう。