飲食店お役立ちコラム

2025.12.1

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「美味しい」の先へ。飲食店の価値を高める「食育」への取り組み

飲食店の食育

飲食店経営において、単に美味しい料理を提供するだけでは差別化が難しい時代になりました。顧客は食事に対し、味だけでなく、体験や健康、学びといった付加価値を求めています。
そこで今、注目されているキーワードが「食育」です。「食育」と聞くと、学校や家庭で行うものというイメージが強いかもしれません。しかし、現代において最も強力な食育の現場となり得るのは、日々、食を提供する飲食店ではないでしょうか。
この記事では、成功している飲食店の事例を紐解きながら、食育という付加価値について考えていきます。

飲食店が食育に取り組む理由とは

飽食の時代と言われて久しい日本ですが、一方で偏った栄養摂取や、食材の背景(誰がどう作ったか)に対する無関心が進んでいます。こうした背景の中、飲食店が「食の正しさ」や「食の楽しさ」を伝えることは、顧客からの深い信頼(エンゲージメント)を獲得する効果的なブランディングになり得ます。

顧客は無意識のうちに、その店が「自分の体を大切にしてくれているか」「子供の未来を考えてくれているか」を感じ取っています。食育を取り入れることは、CSR(企業の社会的責任)であると同時に、選ばれ続ける店になるための戦略となる可能性があります。
また、子供の食育に限らず、最近では「大人の食育」という言葉も注目されています。子供の食育が「体を育てる」ことなら、大人の食育は「体を守る」ことにつながるのではないでしょうか。

次に特徴的な3つのアプローチで食育を実践している事例を見ていきましょう。

1. 事例から学ぶ、3つの食育アプローチ

「数値」と「理論」で伝える、大人のための食育

健康意識の高い層に対し、具体的なデータや理論を提供することで、納得感と安心感を生み出す手法です。

健康計測機器メーカーがプロデュースする食堂

自社の知見を活かし、1定食あたり「500kcal前後、塩分3g以下」という明確な基準を設けています。特徴的なのは、ご飯をよそうエリアに計量器を置き、顧客自身に適正量を計らせる点です。また、各テーブルには「タイマー」が置かれ、20分かけてゆっくり食べることを推奨しています。ただ健康的な食事を出すだけでなく、「適量を知る」「食べ方を学ぶ」という体験を提供しています。

全国展開する大手定食チェーン

「家庭の味」を掲げる同店では、HPやメニュー表で栄養バランスに関する知識を積極的に発信しています。国が定めた毎月6月の「食育月間」などに合わせ、定食文化の素晴らしさを広める活動も行っています。「外食=不健康」というイメージを払拭し、「ここに来ればバランスが整う」というポジションを確立しています。

自然食・玄米系レストラン

特定の店舗に限らず、多くの自然食レストランでは「一汁三菜」という日本の伝統的な食事スタイルを基本としています。現代人が忘れがちな「旬の食材」や「発酵食品」の力を、食事を通して感じてもらうことも、食育の一つの形と言えます。食事を通して体が整う感覚を得ることは、顧客にとって大きな説得力を持ちます。

2. 「体験」と「冒険」で育む、子供のための食育

ファミリー層にとって、子供が食事を楽しめるかどうかは店選びの重要な要素になります。

「食の冒険」をテーマにしたファミリーレストラン

ある人気店では、大人と同じメニューをハーフサイズで提供する試みを行っています。子供を「子供扱い」せず、本格的な味や盛り付けに触れさせることで、食への好奇心を刺激します。また、離乳食を無料で提供し、初期の「ダシの味」を知ってもらう取り組みは、親世代のファン化にも繋がっています。

子供の本・おもちゃの専門店に併設されたオーガニックレストラン

有機野菜を中心としたビュッフェスタイルで、「野菜本来の味」を伝えています。安全基準の厳しさは有名で、親が安心して食べさせられるだけでなく、食材選びの基準を学ぶ場としても機能しています。

体験教室を開催する大手チェーン

うどんチェーンやピザチェーンなどでは、子供たちが調理体験できる教室を開催しています。自分で作ったものを食べる喜びは、食への関心を高める良いきっかけになります。これは単なるイベントではなく、将来の顧客(ファン)を育てることにもつながるでしょう。

3. 「物語」で繋ぐ、生産者と消費者の食育

食材がどこから来たのかを可視化し、食への感謝を育むアプローチです。

自社農園を持つファーム・トゥ・テーブルの店

その日の朝に収穫した野菜を提供する店では、スタッフ自身が畑作りに関わっています。そのため、珍しい野菜の名前、味の特徴、栽培の苦労を、スタッフ自身の言葉で語ることができます。顧客は料理と共に「ストーリー」を味わい、食材を残さず食べようという意識が芽生えるきっかけとなります

生産者掲示を行う大手ハンバーガーチェーン

ファストフード業界において、いち早く「生産者の顔が見える化」に取り組みました。店内の黒板に、その日の野菜を作った農家の名前を掲示することで、効率化されたチェーン店の食事に「人の温もり」と「責任」を付加しています。

自店でできる「食育」の第一歩

「うちは大手チェーンではないし、農園もない」と、ハードルが高く感じるかもしれません。しかし、食育の本質は、店主やスタッフの「食に対する想い」を伝えることにあります。

「食育」のアイデア

食材のポップを変える

単に「トマト」と書くのではなく、「〇〇さんが土作りからこだわった、甘みと酸味のバランスが良いトマト」と書き添える。これだけで、料理の魅力がより伝わりやすくなるでしょう。また、トマトの栄養素についてメニューに書き添えることも有効です。

「三角食べ」や「旬」を伝える

メニューの隅や卓上のポップで、季節の食材の栄養や、美味しい食べ方を一言添えてみるのはいかがでしょうか。

子供への声がけ

「この人参、甘いでしょう?」「綺麗に食べてくれてありがとう」とスタッフが声をかけることも、食育につながります。

「美味しい」の先へ。飲食店の価値を高める「食育」への取り組み:まとめ

食の簡便化や効率化が進む現代において、飲食店が提供する「リアルな食体験」の価値は相対的に高まっています。単に空腹を満たすだけでなく、「食の知識」や「楽しさ」といった付加価値を提供できる店舗は、顧客にとって大切な存在となるでしょう。

「この店で食事をすると、新しい発見がある」。そうした顧客体験の積み重ねが、価格競争に巻き込まれないブランド力を築きます。食育という視点は、顧客満足度を高め、他店との差別化を図るための有効な経営資源です。長期的なファン育成の施策として、ぜひ自店の運営に取り入れてみてはいかがでしょうか。

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