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2026.02.2

食料・食品

最新の冷凍技術が厨房の働き方と「味」の未来を変える

冷凍技術

日々の厨房において、食材の鮮度管理やロス削減、そして何より「作りたての味」をいかにしてお客様に届けるかは、永遠の課題といえるでしょう。「冷凍」という手段は保存において不可欠ですが、同時に「味が落ちる」「食感が変わる」という品質への妥協と隣り合わせでもありました。

しかし今、その常識を根底から覆す技術が注目を集めています。医療分野での臓器保存や、宇宙観測の現場でも採用されているほどの精度を持つその技術は、私たちの「食」の現場にどのような革命をもたらすのでしょうか。

この記事では、従来の冷凍とは一線を画す「CAS(キャス)」技術について、そのメカニズムから実際の活用事例、そしてこれからの厨房運営にもたらすメリットまでを紹介します。

従来の急速冷凍が抱える「水分移動」という構造的課題

多くの料理人が冷凍保存において最も腐心するのは、解凍時のドリップ流出と食感の喪失でしょう。これは単なる保存状態の問題ではなく、従来の「冷風を当てる」という凍結方式(-35度から-45度)が抱える物理的な構造課題に起因します。

一般的な急速冷凍では、冷気が当たる食材の表面から凍結が始まります。すると、外周部に形成された「氷の壁」が断熱材のような役割を果たし、中心部への冷気の伝達を阻害してしまいます。この表面と内部の「凍結速度のタイムラグ」が、品質劣化の決定的な要因となります。

内部が未凍結の状態で時間が経過すると、組織内の水分(水分子)は、先に凍った外側の氷に引き寄せられて移動する性質があります。その結果、以下の現象が発生します。

  1. 水分の局所的な偏り: 水分が抜けた中心部は繊維化してパサつき、逆に水分が集中した外側では氷結晶が肥大化・膨張します。

  2. 細胞壁の物理的破壊: 膨張した氷結晶が細胞膜を突き破ることで、組織そのものが損傷します。

解凍時に流出するドリップは、この損傷した細胞から漏れ出した「細胞内液」であり、そこには本来料理に留まるべき水溶性アミノ酸などの「うま味」や「栄養成分」が含まれています。つまり、従来の方式では、凍結のプロセスそのものが、微細なレベルでの「調理ロス」を生じさせてしまっていると言えるのです。

「水分子を振動させる」という逆転の発想

この「細胞破壊」を防ぐために開発されたのが、CAS(Cells Alive System)技術です。その名の通り「細胞を生かしたまま」凍結する技術であり、最大の特徴は「水分子の管理」にあります。
CASは、庫内に微弱な電流や磁場を発生させ、食材に含まれる水分子を振動させます。これにより、食材全体を「過冷却状態」(凝固点以下でも凍らずに液体のままである状態)にします。そして一気に凍結させることで、氷の結晶が肥大化するのを防ぎ、微細なまま均一に凍らせることが可能になります。

電子レンジが分子を振動させて温めるのと同様の物理学的アプローチを、冷凍に応用したといえばイメージしやすいでしょうか。
その結果、細胞壁は傷つかず、解凍後もドリップがほとんど出ません。アミノ酸などのうま味成分や、みずみずしさ、香りまでもが、限りなく「凍結前」に近い状態で再現されるのです。マグロの組織画像を比較しても、従来の方法では組織損傷が激しいのに対し、CAS凍結では氷晶が小さく、組織がきれいに保たれていることが実証されています。

厨房にもたらす3つの革命

CAS技術を導入することで、実際の現場には以下のようなメリットが生まれます。

1. 「旬」と「鮮度」の時空を超えた提供

CAS技術を活用すれば、産地や季節の制約を超えることができます。
例えば、離島で獲れた新鮮な魚介類は、従来なら市場に出るまでの時間経過で価値が下がっていましたが、CAS導入により、鮮度を保ったまま東京などの大市場へ出荷することが可能になりました。
また、和菓子メーカーでは、収穫したばかりの栗をCASで保存し、加工時に解凍することで、作りたての栗きんとんの風味を再現しています。これは、一度に大量の仕込みをする必要がなくなり、年間を通じて高品質なメニューを提供できることを意味します。

2. 繊細な料理も「作りたて」のまま再現

京料理のような繊細な出汁や素材の味が命の料理でも、CASは実力を発揮しています。実際に、職人が手がけたお弁当や蒸し物をCAS凍結し、贈答用として販売している事例もあります。解凍しても食感や香りが損なわれないため、テイクアウトや通販事業においても、ブランドの信頼を損なうことなく販路を広げることが可能です。

3. 労働環境の改善と技術継承

実は、現場にとって最も大きな恩恵は「働き方改革」かもしれません。 和食や製菓の現場は、長時間労働になりがちです。
しかし、CASを活用して「作り置き」が可能になれば、あらかじめ余裕のある時間帯に調理・保存をしておくことで、ピークタイムの負担を減らし、労働時間の調整ができるようになります。
これは、厳しい労働環境を理由に離職してしまう若手職人の定着を促すことにもつながります。伝統的な技術を要する作業を適切な時間に集中して行い、それを高品質に保存できることは、技術の継承という観点からも大きな意義があります。

最新の冷凍技術が厨房の働き方と「味」の未来を変える:まとめ

解凍した時に、限りなく作りたてに近い状態を再現できるこの技術は、日本の食文化を世界に発信する強力な後押しとなるでしょう。
しかし、グローバル展開だけでなく、もっと身近な厨房の課題である「フードロス、仕入れの安定化、そして職人の労働環境改善」に対する切り札としても、この技術は大きな可能性を秘めています。 最先端のテクノロジーは、決して冷ややかな機械的なものではなく、職人の手仕事を支え、その価値を未来へつなぐための温かいパートナーとなり得るのです。

「冷凍=妥協」という時代は終わりました。これからは、より良い料理を提供し、より良い働き方を実現するための「戦略的な保存」として、最新の冷凍技術に目を向けてみてはいかがでしょうか。

出典 農林水産省:医療分野でも活用される冷凍技術(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2107/spe1_03.html)を加工して作成

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