2025.11.3
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付加価値を高める「国産小麦」に注目|飲食店のメニュー作りに役立つ活用ガイド

パン、パスタ、うどん、スイーツなど、飲食店の定番メニューに欠かせない小麦粉。現在、小麦の国内自給率は約15%ですが、食の安全を求める声を背景に、独自の風味と魅力を持つ国産小麦への注目が集まっています。 この記事では、なぜ今国産小麦なのか、その背景から具体的な品種の選び方や活用事例まで、飲食店に役立つ情報を網羅的に紹介します。
---- Table of contents -----
国産小麦への期待が高まっている理由
近年の国内外の情勢変化を受け、国産食材、特に国産小麦は単なる食材の選択肢を超え、社会的な要請となっています。
安心・安全志向の高まりと国際情勢
近年の国際情勢の悪化や、食の「安心・安全」への関心の高まりから、消費者や料理のプロの間で、国産小麦を指名買いする動きが増加。この高まる期待感に応える形で、国産小麦の作付面積は増加傾向にあり、高品質な新品種も続々と開発されています。
食料安全保障の重要性
日本が小麦を積極的に国産化すべき背景には、「食料安全保障」の問題があります。
人口増加に伴う食料需要の高まりと、気候変動による異常気象の頻発。これらは世界各地で局所的な不作を引き起こし、穀物価格に大きな影響を与えています。小麦や大豆、飼料作物など多くを輸入に依存する日本では、将来的な供給への懸念は避けられません。
加えて、輸入農産物や生産資材の買い付けをめぐる国際競争は激化し、必要な量を安価に調達することが難しい「買い負け」も発生しているのが現状です。
こうした状況を受け、国は輸入に頼る農産物や生産資材の国内生産拡大に注力することが急務です。食料の安定供給を確保するため、輸入の安定化や備蓄の活用と並行して、国内生産の増大を目指す必要があります。
食品関連事業者においても、国際的な調達競争の激化を踏まえ、実需者や消費者ニーズに応じた生産を推進し、国産原材料への切り替えを促進する取り組みが求められます。その重要な作物の一つが小麦であり、そのために水田の畑地化・汎用化が進められているのです。
国産小麦の多様な魅力と品種選びのポイント
小麦粉は、その原料となる小麦の特性によって、パン用、中華麺用、日本麺用(うどんなど)の3つに大きく分けられ、それぞれに合った品種が全国各地の気候や風土に合わせて栽培されています。
用途別に見る小麦粉の種類と特徴
小麦粉の種類は主にたんぱく質の含有量(グルテンの量と性質)によって決まり、それぞれに適した調理用途があります。
| 種類 | たんぱく質含有量 | 原料小麦 | グルテンの性質 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 強力粉 | 11.5~13.0% | 硬質小麦 | 量が多く、 粘り・弾力性が強い |
パン、ピザ、 中華麺、餃子の皮、 ベーグル、中華まん |
| 中力粉 | 7.5~10.5% | 中間質小麦、 軟質小麦 |
ほどほど | うどん、生パスタ、 お好み焼き、そうめん |
| 薄力粉 | 6.5~9.0% | 軟質小麦 | 量が少なく、 粘り気が弱い |
ケーキ、お菓子、 天ぷらの衣 |
また、パスタ類に多く利用されるデュラム・セモリナは、硬質のデュラム小麦を粗挽きにしたもので、柔軟で弾力性の強いグルテンを豊富に含むため、コシのある食感を生み出します。
主要な国産小麦の品種と産地
国産小麦の収穫量(令和4年産)の65%を北海道産が占めており、一大産地となっています。国産小麦の流通量(過去5年の平均)は88万トンで、そのうち81.1%が日本麺用、17.7%がパン用品種、1.3%が中華麺用品種です。
北海道産
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きたほなみ: 国内産小麦流通量の81.1%を占める日本麺用の品種の主力であり、品種別生産量で全国1位です。オーストラリア産小麦(ASW)に匹敵するか、それを凌駕する加工適性と色合いが評価されています。
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ゆめちから: 超強力小麦でパン・中華麺用。秋まき小麦として安定生産が可能で、他の品種とブレンドすることでパンや中華麺に適した小麦粉が作られています。品種別生産量で全国2位です。
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春よ恋: もともと強力粉である「ハルユタカ」を改良してできた後継品種で、安定生産と製パン性の高さが実現しています。
九州産
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ミナミノカオリ: 製パン性は特に優れており、生地の膨らみや食感が良く、ふくらみやすいパン生地を作れることが評価されています。
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ちくしW2号(ラー麦): 福岡県がラーメンのために開発した中華麺用品種で、コシが強く歯切れが良いのが特徴です。
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シロガネコムギ、チクゴイズミ: 日本麺用の品種。シロガネコムギとチクゴイズミは品種別生産量でそれぞれ全国3位、4位です。
東海産
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きぬあかり、あやひかり: 日本麺用の品種。
近年、国産需要の拡大に対応するため、栽培性や加工適性に優れた優良な品種の開発・普及が進んでおり、令和3年産では、小麦の作付面積の約20%を新品種が占めています。
料理の品質を高める|注目の全粒粉
国産小麦を選ぶことは、風味や食感の向上だけでなく、メニューの栄養価や健康志向への対応にも直結します。
全粒粉の魅力と用途
最近、メディアや店頭で注目度が高まっているのが「全粒粉」です。全粒粉(別名グラハム粉)は、小麦の殻まですべて一緒に挽いた粉で、小麦粒の「胚乳」「表皮」「胚芽」のすべてを含んでいます。
小麦の表皮(ふすま/ブラン)には、食物繊維、たんぱく質、カルシウムなどが含まれているため、全粒粉は栄養価が高くなります。また、香ばしい風味と香りが高く、しっかりとした食感があるため、嗜好性の高い現代の食に合った食材であり、今後ますます需要の広がりが期待されています。
国産小麦の活用事例
国産小麦を活用することは、メニューの付加価値を高め、他店との差別化を図る強力な武器となります。
地域に根差した伝統・地域食のインスピレーション
日本各地には、小麦粉を利用し、その土地の気候風土から生まれた伝統料理や地域食が存在します。これらをヒントに新たなメニューを開発することで、地域性が際立ち、ストーリー性のある商品が生まれます。
山梨県:ほうとう
小麦粉を練って平らに切った「ほうとう麺」を野菜と煮込んだ主食
大分県:だんご汁
小麦粉を薄く帯状に伸ばし、野菜と一緒に麦味噌などで煮込むソウルフード
群馬県:焼きまんじゅう
小麦栽培が盛んな群馬県の郷土料理で、串に刺したまんじゅうに甘い味噌だれを付けて食べる
熊本県:いきなり団子
輪切りのさつまいもの上に餡を置き、小麦粉の生地で包んで蒸したもの
福岡県:ラー麦ラーメン
ラーメンのために開発された「ラー麦」を使ったコシと歯切れのよいラーメン
愛知県:きしめん
厚さ1mm、幅7~8mmの平たいうどんで、愛知県のソウルフード
国産小麦を選んだ理由と顧客の反応
実際に国産小麦を積極的に使用している飲食店の声から、品質へのこだわりと顧客の明確なニーズが見えてきます。
パン工房/北海道
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広大な小麦畑の景色を大切にしたいという思いから地元の農産物を積極採用。
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「ゆめちから」「春よ恋」「きたほなみ」など、高たんぱく質で質の良い品種を使用。
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お客さまは食材の安全性に敏感で、国産食材の指名買いが多く、国産小麦を使ったパンやラスクは人気商品となっている。
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他のパン店でも、「キタノカオリ」「ドルチェ」「TYPE ER」などをパンの種類によって使い分けており、お客さまからの評判は良い。
ピッツァ店/東京都
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国産小麦を使ってピッツァ職人の世界大会に挑戦したいという目標から、北海道産小麦100%のピッツァ専用粉を開発。
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国産小麦を使用したピッツァで最優秀賞を受賞したことで、日本の食材の素晴らしさを世界に伝えたいと意欲を高めている。
うどん店/香川県
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地元産の小麦粉100%のおいしいうどんを作りたいという思いから、県産の「さぬきの夢」を採用。
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これは、海外産小麦粉が主流だった地域において、地元の生産者を応援し、地域を盛り上げたいという強い意志に基づいている。
付加価値を高める「国産小麦」に注目|飲食店のメニュー作りに役立つ活用ガイド:まとめ
国産小麦は、単なる食材ではなく、顧客の安心・安全志向に応えるための最良の選択肢です。ゆめちからやきたほなみなどの優れた品種は、高い加工適性と独特の食感を提供し、メニューの付加価値を高めます。
国産小麦の採用は、単に「地産地消」の話だけではなく、高品質な商品開発、顧客満足度、そして不安定な国際情勢下でのリスクヘッジという、経営上必須のメリットを同時に享受できる戦略的な選択と言えるでしょう。
出典:農林水産省 国産小麦の魅力(https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/attach/pdf/mugi_kanren-105.pdf)
小麦の自給率(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-11.html)を加工して作成

