2025.01.6
経営
野菜の価格高騰にどう立ち向かう?新たな食材調達の可能性を視野に

近年、飲食業界を取り巻くコストの上昇は、どの経営者にとっても頭の痛い問題です。その中でも最近の野菜の高騰は、直接的に利益率に影響を与えています。野菜の価格は天候や生育状況、さらには供給のバランスに大きく左右されるため、予測を立てるのは難しいのが現実です。
この記事では、令和7年1月時点での野菜価格の動向を把握するとともに、野菜の価格高騰対策として新たな食材の仕入れ先について考えていきます。
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野菜の価格高騰の原因
直接的な影響
今回の野菜価格高騰については、夏秋期の高温や12月の低温等の影響により、出荷数量が平年を下回ったことによる供給不足が原因です。
今回に限らず、野菜の価格高騰に特に影響が大きいのは、このような天候不順と生産地の状況です。夏の高温や秋の低温、干ばつなどの異常気象が続くと、野菜の生育に必要な温度や湿度が確保できず、収穫量が減少することで供給が不足し価格が上昇します。また収穫量が少ないと品質も低下し、流通業者や小売店は高価格での販売を余儀なくされます。
間接的な影響
その他、物流コストの上昇や農業従事者の減少も、野菜の価格に影響を及ぼします。
働き方改革関連法による運送ドライバーの労働時間短縮が、輸送コストの上昇を招き、仕入れ価格に影響を与えています。また、ガソリン価格の上昇や国際情勢も輸送費に影響を与え、結果的に野菜の小売価格に反映されます。
さらに、農業従事者の減少も一因です。高齢化や後継者不足が進む中で、効率的な生産が難しくなり、結果として生産量が安定しません。そのため、供給量が不安定になり、価格が上昇します。
令和7年1月の野菜価格見通しと背景
農林水産省の調査によると、令和7年1月の野菜価格は、昨年の天候不順の影響を受けて、平年より高い水準で推移する見込みです。具体的には、12月の低温や干ばつの影響で出荷量が減少し、供給が厳しくなったため、多くの品目で価格が平年を上回っています。
主要な野菜の生育、出荷及び価格の見通し
だいこん(主産地:千葉50%、神奈川45%)
12月の低温、干ばつの影響により細く小さい成長傾向となっており、1月の出荷数量は平年を下回り、価格は平年を上回って推移する見込みです。
にんじん(主産地:千葉85%)
8月〜9月の高温の影響により細く小さい成長に加え、生育環境の悪化による収穫量や品質の低下がみられ、1月の出荷数量は平年を下回り、価格は平年を上回って推移する見込みです。
はくさい(主産地:茨城86%)
生育は順調で、1月の出荷数量は平年並みが見込まれますが、他の葉物野菜の出荷が減少するため、引き合いが強くなり、価格は平年を上回って推移する見込みです。
キャベツ(主産地:愛知45%、千葉29%、神奈川10%)
8月〜9月の高温、10月の天候不順の影響により生育環境が悪化し収穫量や品質の低下に加え、12月の低温、干ばつの影響により小玉傾向となっています。1月の出荷数量は下旬に向けて回復も見込まれますが平年を下回り、価格は平年を上回って推移する見込みです。
ほうれんそう(主産地:茨城39%、群馬37%)
生育は概ね順調であり、1月の出荷数量は平年並みが見込まれますが、他の葉物野菜の出荷数量が減少傾向なので引き合いが強まり、価格はやや平年を上回って推移する見込みです。
ねぎ(主産地:千葉28%、茨城24%、埼玉19%)
8月〜9月の高温の影響により、生育環境の悪化による収穫量や品質の低下がみられ、生育は回復傾向にあるものの、1月の出荷数量は平年を下回り、価格は前月から徐々に落ち着くものの平年を上回って推移する見込みです。
レタス(主産地:静岡36%、香川16%、長崎13%)
10月〜11月の高温の影響による生育不良に加え、12月の低温、干ばつにより小玉傾向となっており、1月の出荷数量は平年を下回り、価格は平年を上回って推移する見込みです。
きゅうり(主産地:宮崎48%、千葉16%、高知15%)
宮崎県産・高知県産は10月〜11月の天候不順の影響により生育不良がみられ、出荷数量は平年を下回る見込み。千葉県産は夏秋期の高温の影響により定植・生育遅れがみられるものの回復傾向にあり、出荷数量は平年並みで推移する見込み。 全体として1月の出荷数量は平年を下回り、価格はやや平年を上回って推移する見込みです。
なす(主産地:高知67%、福岡17%)
夏秋期の高温、11月下旬以降の低温の影響により生育不良がみられます。生育は回復傾向にあるものの、1月の出荷数量は平年を下回り、価格は前月から徐々に落ち着くものの平年を上回って推移する見込みです。
トマト(主産地:熊本40%、栃木20%、愛知16%)
夏秋期の高温、11月の天候不順、12月の低温等の影響により、生育不良、歩留まりの低下がみられることに加え、小玉傾向となっています。1月の出荷数量は平年を下回って推移し、価格はやや平年を上回って推移する見込みです。
ピーマン(主産地:宮崎49%、鹿児島15%、高知15%、茨城11%)
宮崎県産・鹿児島県産・高知県産は10月から11月の天候不順、12月の低温の影響等により、生育不良等がみられ、1月の出荷数量は平年を下回って推移する見込み。茨城県産は夏秋期の高温の影響等により、成長が不十分なまま収穫時期を迎えています。 全体として、1月の出荷数量は回復傾向にあるものの平年を下回って推移、価格は前月から徐々に落ち着くものの平年を上回って推移する見込みです。
ばれいしょ(主産地:北海道66%、長崎19%、鹿児島16%)
北海道産・長崎県産に加え、鹿児島県産の出荷が増加します。北海道産は収穫及び貯蔵が完了。長崎県産・鹿児島県産は定植時期の高温、干ばつの影響により小玉傾向となっており、1月の出荷数量は平年を下回る見込み。全体として、1月の出荷数量は平年を下回り、価格は平年を上回る見込みです。
さといも(主産地:埼玉66%、愛媛11%)
埼玉県産の生育は順調であり、1月の出荷数量は平年並みで推移する見込み。愛媛県産は定植時期の長雨、夏秋期の高温の影響により歩留まりの低下がみられることに加え、小玉傾向となっています。 全体として1月の出荷数量・価格は平年並みで推移する見込みです。
たまねぎ(主産地:北海道75%、静岡20%)
北海道産に加え、静岡県産の出荷が増加します。 北海道産は収穫及び貯蔵が完了。静岡県産は播種時期の高温、その後の降雨の影響等により、生育遅延がみられます。 全体として1月の出荷数量は平年を下回り、価格は平年を上回って推移する見込みです。
ブロッコリー(主産地:香川24%、愛知23%、熊本19%)
12月の低温、干ばつの影響による生育の停滞に加え、歩留まりの低下がみられます。 全体として1月の出荷数量は平年を下回り、価格は平年を上回って推移する見込みです。
※「平年並み」とは、平年(過去5か年平均)との比率が概ね90%以上、110%以下であることを示しています。
これらの品目に関して、いずれも価格が平年を上回って推移する見通しとなっており、今後も高騰が続く可能性が高いと予測されています。平年並みの出荷が見込まれ、価格も安定しているのは、さといもだけという結果になりました。
野菜の価格高騰対策〜新たな仕入れ先の選択肢〜

天候の影響による野菜価格高騰は避けられませんが、飲食店は常に対策を考えておく必要があります。仕入れ先との交渉により安定供給を図ったり、メニューの調整によりコストの上昇を抑える施策は、すでに多くの飲食店で行われていることでしょう。
天候以外の野菜価格高騰の要因である、物流コストの上昇や農業従事者の減少についても、今後ますます大きな問題となることが予想されます。そのためには、複数の仕入れ方法を考えておくことも、価格高騰のリスクを軽減することにつながります。
現在、新たな農業のスタイルや、食材調達の手段が生まれており、これらも今後の仕入れ先の選択肢となる可能性があります。
都市農業
都市農業は都市部内またはその極めて近い場所で行われる農業を指します。
市街化区域内の農地は全体の約1.3%にとどまりますが、その立地が都市住民に非常に近いことが特徴です。この特性を活かした都市農業は、全国の農業経営体のうち約12.4%が取り組んでおり、農業の総産出額の6.5%を占めています。
ただし、都市農業では広大な農地が確保できないため、1つの農業経営体が管理する面積は一般的に小さいです。しかし、温室などの施設を活用し、年に数回作物を収穫する方法を取り入れることで、約15%の農業者は年間500万円以上の売上を上げています。これにより、都市の中で行われる農業が活発に展開されています。
出典:農林水産省 市農業をめぐる情勢について(https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/attach/pdf/t_kuwashiku-62.pdf)
現在、都市農業では有機農業への取り組みが積極化しています。特に人口密度の高い地域では、有機野菜に対する需要が高いため有機農業に取り組む経営体が多く、その販売金額規模も比較的大きい傾向にあります。
また、小規模飲食店においても有機野菜の提供をコンセプトにした店舗が増えています。このことから有機農業は都市農業の成長分野と言えるでしょう。
出典 農林水産省:都市・都市近郊農業における構造変化と立地別の特徴
(https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/231215_R05census_11.pdf)
飲食店のメリット
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都市農業は消費者に近い立地のため、飲食店は必要な時に必要な量の新鮮な食材を仕入れやすく、輸送コストや時間ロスを削減し、食材の鮮度を最大限に保てます。
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生産者との密接な関係を築くことで、天候不順などの予期せぬ事態にも柔軟に対応できる可能性が高まります。これは飲食店が安定したメニュー提供を継続する上で非常に重要です。
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地産地消は消費者にとっても魅力的な要素です。地元で生産された食材を使った料理を提供することで、地域への貢献をアピールできるだけでなく、食材の安全性や生産者への信頼感も高まり、お客様の満足度向上にもつながります。
注意点
都市農業は飲食店にとって新たな食材調達の選択肢となりうる一方で、安定供給などの課題も残されていると考えられます。都市農業は通常、小規模な生産が多いため、大規模な飲食店には向かない場合があります。
食材マッチングサービス
食材マッチングサービスは、飲食店と生鮮食材の生産者や供給業者を直接結びつけるサービスです。スマートフォンやパソコンから簡単に登録・利用できるシステムにより、飲食店は仕入れ先の多角化が可能となり、生産者は新たな販路を開拓できる仕組みとなっています。
全国展開している食材マッチングサービスも多く、地域を選んで利用すれば地元の新鮮な食材を直接仕入れることができます。その場合は、輸送距離も短いので送料も抑えられます。
飲食店のメリット
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飲食店と生産者が直接取引することで、中間業者のマージンが省かれ、安定的な価格での調達が可能になります。
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複数の仕入れ先からの提案を受けることができるため、価格や品質、配送条件などを比較しやすくなります。
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飲食店は複数の生産者と取引できるようになり、調達先の多角化によりリスクを分散できます。
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多くの食材マッチングサービスでは、飲食店が必要な時に必要な分だけ仕入れられる柔軟な利用形態を提供しています。
注意点
食材マッチングサービスの手数料が必要となります。また、食材の品質を見極めるには実際に試してみる必要があります。一部のサービスは登録や利用が無料で行えるため、試しにスポットで利用することが可能です。
野菜の価格高騰にどう立ち向かう?新たな食材調達の可能性を視野に:まとめ
野菜の価格高騰は、天候不順や物流コストの上昇など、さまざまな要因が重なって起こっています。天候不順の影響は避けられませんが、最近では新しい農業の方法や流通システムが登場しており、これらが野菜の価格高騰対策に役立つ可能性があります。
将来的には農業技術の進化によって、都市部でも効率的に農業を行うことができるようになると期待されています。都市農業は法人化されることが多く、労働環境が整いやすいため、農業従事者の増加につながる可能性を秘めています。都市農業が発展すれば、飲食店は食材調達の選択肢が広がるでしょう。
また、食材マッチングサービスは、IT技術の発展により、オンラインで簡単に取引先を見つけやすくなっています。このサービスを活用すれば、食材の仕入れ先を多角化することができ、野菜の価格高騰に対するリスクを減らす手助けになります。
飲食店は、今後の野菜の価格動向に注目しつつ、こうした新しい食材調達方法を視野に入れ、柔軟に対応していくことが求められています。
出典 農林水産省:野菜の生育状況及び価格見通し(令和7年1月)について
(https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/attach/pdf/index-136.pdf)を加工して作成